ウルトラデントジャパンブログ

修復治療の質を左右する光照射-前編-

作成者: Ultradent Japan|2025/10/21 1:32:20

コンポジットレジン修復は、材料や接着技術の進歩により日常臨床に欠かせない治療方法となっている。その工程の一部である光照射は、修復物の物性と長期予後を左右する重要な一手であると感じている。十分な光が届かなければ未重合によるギャップや二次う蝕、さらに破折のリスクを高める可能性があるからだ。

 

臨床現場で照射器を選ぶ際、「○秒で硬化可能」「高い放射照度」といった表現に目を奪われがちだが、それだけでは適切な硬化を保証することはできない。放射照度(Irradiance, mW/cm²) が高くても、光が一点に集中する“ホットスポット”があると、その周辺部では十分な放射照度が得られず、硬化が不十分となり修復の信頼性を損なう恐れがある。Dayaneら1)は、光硬化において放射照度の数値だけでは不十分であり、ビームの均一性と照射面全体への十分な放射曝露が必要であると指摘している。

 

さらに、レジン材料に含まれる光開始剤の多様化も無視できない。従来の青色光だけでは対応できない領域が増え、複数の波長域をカバーする光源が必要となっている。この点についてRocha2)らは、単一波長であるモノウェーブLEDではCQ以外の光開始剤(TPO, Ivocerinなど)を含むレジンでの重合率が低下してしまうことを報告しており、複数波長に対応した光源であるマルチウェーブLEDの必要性を裏付けている。すなわち、臨床的に求められるのは「十分な放射照度」だけではなく、「均一なビーム分布」と「複数波長への対応」という二つの条件を満たす照射器であることがわかる。

もちろん、照射距離を縮め、修復範囲にしっかりと光を当てることは術者においての大原則となる。その上で照射口径の大きいものであればMOD窩洞のような広い修復範囲への照射には有利に働く。

 

Fig1. 左:VALO GRAND 口径11.7mm,
   右:VALO X 口径12.5mm

 

加えて、バッテリー性能も欠かせない要素である。コードレスは取り回しが良い一方で残量低下による出力変動が問題となることがある。3)コード接続式は安定を得られる一方、自由度が制限される。

臨床現場で理想的なのは、状況に応じてコードレスでもコード付きでも使える照射器だろう。操作性と安定性を兼ね備えた柔軟性は、術者に大きな安心感を与えるのではないだろうか。

 

 

ここまでで、照射器を選ぶ際に注意すべきポイントと、その背景について紹介した。
後編では、照射器に求められる資質について、症例写真とともにさらに深掘りしていく

 

1)Dayane, et al. Light curing matters: Facts often overseen by dentists. Restorative Dentistry. 2018.5(4).art.4
2)MG Rocha, et al. Light-emitting Diode Beam Profile and Spectral Output Influence on the Degree of Conversion of Bulk Fill Composites. Operative Dentistry. 2017, 42-4, 418-427
3)IO Cardoso et al. Influence of Different Cordless Light-emitting-diode Units and Battery Levels on Chemical, Mechanical, and Physical Properties of Composite Resin. Operative Dentistry. 2020, 45-4, 377-386

 

● 後編更新予定日:2025年10月28日(火)

 

【著者】

北久里浜矯正歯科 歯科医師
歯学博士

林 明賢 先生

 

【略歴】
2015年 鶴見大学歯学部卒業
2015年 長崎大学病院総合歯科診療部
2016年 東京医科歯科大学 う蝕制御学分野
2019年 フロリダ大学 保存修復学講座
2022年 東京医科歯科大学大学院修了 歯学博士
【資格・所属学会】
日本歯科保存学会 認定医
日本接着歯科学会 会員
International Association for Dental Research member

 

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